●白井市ことですが
お隣り、白井市の前市長が北総線の値下げ補助金にからんで「違法な専決処分をした」として市民グループから訴えられ、つい先ごろ完全敗訴した事件をご記憶でしょうか。北総線の運賃を下げるために使われた補助金三千万円を、着服したわけでもないのに、前市長個人で「損害賠償」しろと言われ、自己破産せざるを得ない状態に陥っています。
新聞でも報道されましたので、ご覧になった方もおられるかと思います。
北総線の高運賃は、印西市にとっても重大な行政課題です。
「北総線の運賃は下がらないのか。議会は何もやらないのか」とよく言われます。
私はその度に、「残念ながら北総線の運賃は下がりません」「一つの市議会で質問したところで動くような問題ではありません」とお答えするしかありません。
なぜ、運賃は下がらないのか。
前述の白井市の事件が大きく関係していますので、皆さんにご理解いただけるよう記しておきたいと思います。
●通学定期は補助で下がっています
北総線の通学定期が、県と沿線市の補助金によって25%下がっていることをご存じの方は、もう少ないかもしれません。25%引きですから、7500円の通学定期を買っている人は、本当の値段は1万円ということになります。
この割引が始まったのは平成16年。当時、印西市は1億2千万円の財政出動をして、もっとも家計負担のある通学定期代を下げる取り組みをし、白井市、本埜村、印旛村も連動して始めました。2市2村だけの特別割引で、市役所で発行する「住所証明」を窓口に提出して割引された定期券を買い求めました。
当時の印西市にとっては安くない財政出動です。成田スカイアクセスが開通する際には、補助金が無くても運賃を下げてもらえるよう、鉄道会社に交渉をしていく、と当時の印西市長は言っていました。
私自身は、スカイアクセス線開通時の値下げを要望した10万人署名に取り組んでいました。当時は、沿線人口は8万人でしたので、それを超える署名数を目標にし、行政の協力もあって達成でき、10万人の署名を国土交通省まで届けました。
通学定期補助をしている2市2村からの強い要望、10万人を超える沿線住民の声もあって、それまで、北総線問題には冷淡だった千葉県が、値下げ交渉に前面にたって取り組むようになりました。
そして、県が中心になって、鎌ヶ谷市、船橋市、松戸市、市川市も入った「活性化協議会」が立ち上げられ、鉄道会社との交渉の結果、値下げによる減収分を公民で折半することで、通学定期の25%割引に加え、普通運賃や通勤定期も5%ほど、5年間引き下げる合意案がまとまりました。
印西市の財政負担は、6千万円に減り、わずか5%でしたが、通学定期以外も下がりました。何よりも、初めて運賃値下げの交渉に県知事が動いたこと、「これは第一歩だ」と知事が言っていたことは、今後の希望になると思いました。
しかし、ここで問題になったのが白井市です。
前市長が白井市の負担分の予算を議会に提出したところ否決されてしまったのです。反対の理由は「営業黒字の会社に補助をすべきではない」というものでした。
県が乗り出してようやく交渉の緒についたところで、交渉相手の了解がとれない「べき論」を振りかざしたところでどうしようもありませんが、白井市議会はそういう状態でした。
沿線市の一つでも離脱すれば(予算が通らなければ)、合意案はすべて「おじゃん」です。運賃の仕組み上、白井市民にだけ値下げ運賃を適用しないというわけにはいきません。
もう一度提出された予算を、白井市議会は、賛成10反対10で、議長が辞任する事態になって(議長を選出した側が負けるため)流会になり、前市長は専決処分で補助金支出を決めました。
その専決行為が、違法だと補助金支出に反対する市民グループから訴えられ、複雑な経緯と白井市の訴訟対応のまずさもあって、個人賠償という結果に行き着きました。
前市長の決断は裁判で認められませんでしたが、単に補助金を出す出さないという単純な手続き問題ではなく、「値下げ交渉の枠組み守る」という大きな意味がありました。
千葉県が中心になって、県知事自らが京成電鉄と交渉し、この値下げは第一歩だと言って合意したこと。この枠組みを白井市が壊してしまってはいけないという決断だったと思います。
この裁判が提起されたことで、県はそっぽをむきました。交渉の末、ようやく得られた値下げ合意を、反対派の白井市議たちや市民グループが「 たった5%」と反対したことで、「もう地元で勝手にやってくれ」ということになったわけです。
裁判は8年間かかりました。その間、一度も印西市と白井市は運賃値下げについて連携することはなく、活性化協議会の動きはまったくなくなりました。
前市長の専決によって成立した値下げ合意は、平成27年で失効し、普通運賃と通勤定期は値上がりしました。値下げ幅が大きく、上がったら北総鉄道に苦情が殺到するだろう通学定期だけは、沿線市と県が「鉄道施設の耐震化工事への補助」をすることを条件に10年間の継続が決まりました。
せっかくつくられた値下げ交渉の枠組みを足蹴にして、誰にも協力してもらえない現状にした犯人は?
どれだけこの地域の発展を阻害しているか、まったく無自覚な状態が続けば、、、、おそらく、これからも続いていくのでしょう。だから、北総線の運賃は下がりません。(2018.10.25)